公的年金の価値を再考

先日、厚労省から2014年時点の年金受給倍率(受給総額の掛け金総額に対する比率)が公表された。それについての報道の中心は、倍率の世代間格差が前回試算よりも拡大したことであった。要因は、デフレ傾向が続いたためにマクロ経済スライドの発動が遅れたこととのことだった。

マクロ経済スライドとは

物価が上昇した場合に、その上昇率よりも年金アップ率を抑えて、相対的に年金水準を下げていくシステム

高齢者と若年者の受給倍率は下記の通り

1945年生まれ 5.2倍
1985年以降生まれ 2.3倍
<厚生年金>
1945年生まれ 3.8倍
1975年以降生まれ 1.5倍
<国民年金>

しかし私見ですが、若年者の関心の的は世代間格差もさることながら、受給倍率そのもの、言い換えれば掛け金負担に対する恩恵がどの程度なのか、ということではないだろうか。掛け損になるのでは、との懸念だ

実際国民年金(基礎年金のみ)の1.5倍という数字だけを見れば、ありがたみに物足りなさを感じる。なぜなら20歳から40年間掛け金を拠出し、5年間据え置いた後、20年間で取り崩すことを想定した場合、年複利1.15%の利回りを維持できれば達成できるからだ。1.15%というのは自分で運用しても不可能な利回りではない

だが単純にこの1.5倍という「成果」のみをもって年金の価値を決めることはできない。というのは発表されている金額や倍率は、一定の前提を設定して算出したものであるとともに、年金機能の一部しか見ていないからだ。内容を一つずつ見ていこう

まず公表された倍率計算は、65歳時の平均余命まで生きることを前提に計算されたもので、それよりも長生きすれば当然ながら公表以上の倍率となることだ。先述の自分で運用した成果は85歳で底をつく。その点、公的年金は終身受給なので長生きに怯えることはない

つぎに物価上昇への対応である。公的年金ではマクロ経済スライドによる調整があるものの、物価上昇等に対応して年金額が増える仕組みがある。一方自己運用の場合、その対応を考慮したポートフォリオを組む必要があるし、それは同時に相応のリスクを抱える結果となる

最後に障害年金や遺族年金の存在である。公的年金は加入当初から障害への備えや遺族への保障が得られる。それに対して自己運用の場合、それまでの積立金プラス利殖分しか対応原資とならない

このように公的年金はまさに社会保障の一環として運営されているのであり、単なる老後のための利殖ではない。公的年金への加入は義務であり選択の余地はないが、ここまで見てきた機能を考慮すれば、仮に選択性であったとしても加入する価値があると思われる

なお厚生年金における倍率計算では負担額に企業負担分が含まれていないため高い倍率になっている。企業負担分も、それがなければ給与に上乗せされていたという見方をすれば、それも含めて計算するのが筋という見解もある。そうなれば国民年金以下の倍率となるが、実感としては自己負担分のみであり、試算結果に違和感はないだろう