自筆証書遺言の保管開始

7月10日より法務局による自筆証書遺言書の保管制度がスタートする。利用は自由であり、以下掲載のメリデメ、手続き、留意点などを参考に採用について検討されたい。

法務局保管のメリデメ
メリット
  • 相続発生の際に通常1ヶ月ほど要する「遺言書の検認作業」が不要となる(ただし遺族が内容を確認する際は、相続関係を証する戸籍謄本等を求められるため、その取寄せの手間暇は自宅保管と同じ)
  • 隠匿・改ざん・偽造のリスクを排除できる
  • 保管申請時に形式上のチェックが行われるため、形式上の不備による遺言の無効化を防げる(内容のチェックはないため、記載内容上の問題で遺産分割に支障をきたす可能性は残る)
  • 自宅内での保管場所移動等による「遺言が発見されない」リスクを解消できる
  • 申請により、死亡時に相続関係人(相続人・受遺者・遺言執行人等)のうち1名に遺言書保管の事実を通知してもらうことができる(令和3年度開始)。ただ当該相続関係人が相続発生時に存命していなかったり、離婚等により相続人でなくなっていたりする可能性もあり、複数人に法務局保管の事実を伝えておいたほうがよいと思われる

デメリット
  • 多少面倒な手続きが必要
  • 遺言書の書式に制限がある
  • 少額ながら手数料を要する
  • 住所変更等の際には届出が必要
  • 特に、遺言の内容変更には再度の手続き(保管撤回→保管再申請)を要する
保管申請手続き

WEBサイト・電話・窓口のいずれかにて予約の上、本人が指定法務局に出向いて申請しなければならない(現在、出張所等は不可)

後掲「保管中」も含め、すべての手続きについて予約要。また請求用紙をあらかじめ取寄せ、または法務省サイトよりダウンロードし、内容を記載の上、訪問することを求められている

申請時の持参物
  • 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等、顔写真付き公的証明書)
  • 遺言書(下記要件を充足の上、封に入れずに持参)
    下記様式要件を充たしていれば7月9日以前作成の遺言も可
  • 住民票(本籍及び筆頭者を記載した、発行後3か月以内のもの)
    余白に「原本と相違ありません」と記載したコピーを添付すれば原本が還付される
  • 保管申請書(法務省サイトからもダウンロード可)
  • 印鑑(スタンプ印でなければ認印で可)
  • 手数料分(3,900円)の収入印紙(法務局で購入可)
遺言書の条件
  • A4用紙の片面のみに記載する(用紙の縦置き・横置き、また縦書き・横書きは問わない)
  • 複数枚の場合、各ページにページ番号を付す
  • 上下左右に各々5・10・20・5㎜以上の余白をとる(ページ番号を含め余白には何も記載しない)
  • ボールペン等、消えない筆記用具で書く
  • 複数枚ある場合でも綴じない

手続き終了後、保管証が交付される(郵送での受取りも可)

保管中の手続き
保管の撤回

予約の上、本人が出向いて申請すれば、いつでも手数料なしで保管の撤回ができる(本人確認書類持参)。なお保管中の遺言書を引き出しても、遺言の有効性が失われるわけではない

届出事項の変更

申請時の届出事項に変動が生じた場合は届出が必要(ただし遺言者本人以外の住所変更は届出不要)なお変更の届け出は全国の指定法務局で手続き可能(郵送も可)

遺言書の閲覧

相続発生前は遺言者本人のみ閲覧可能

相続発生時の手続き
遺言書保管事実証明書の交付

保管の有無のみを証するもので誰でも交付請求できるが、相続関係人以外が請求しても「保管なし」となる。なお全国どこの指定法務局でも請求できる(郵送も可)

必要添付書類

  • 遺言者の死亡を証する戸籍(除籍)謄本
  • 交付請求人の住民票
  • 相続人の場合は、それを証する戸籍謄本
    (受遺者・遺言執行人は保管申請時に届出済みのため不要)
  • 本人確認書類(窓口で交付を受ける場合)
遺言書情報証明書の交付

遺言書の画像情報・遺言者の情報・受遺者・遺言執行人の住所・氏名が表示されており、遺言者死亡後、相続関係人のみが請求可能

必要添付書類

  1. 遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍)謄本
  2. 相続人全員の戸籍謄本
  3. 相続人全員の住民票
  4. 受遺者や遺言執行人が請求する場合は請求者の住民票
  5. 請求者の本人確認書類(窓口受取の場合)

住所記載のある法定相続情報一覧図の写しがあれば1~3は不要

この「遺言書情報証明書」により不動産の相続登記も可能であり、全国どこの指定法務局でも請求できる(郵送も可)。なお本証明書が交付されると、他の相続関係人に遺言書保管の事実が通知される

遺言書の閲覧

遺言者死亡後に、相続関係人のみが閲覧可能であり、上記「遺言書情報証明書」と同様の添付書類が必要となる。またこれも一人が閲覧すると、他の相続関係人に遺言書保管の事実が通知される。なお原本でなくモニターでの画像閲覧なら、全国の指定法務局で閲覧可能である

手数料
保管申請 3,900円
保管撤回・届出事項の変更 無料
閲覧(モニター) 1,400円
閲覧(原本) 1,700円
保管事実証明書の交付 800円
情報証明書の交付 1,400円
保管申請書・撤回書等の閲覧 1,700円