2020年金改正法が成立

29日に成立した本改正法は、主に厚生年金被保険者の拡大、高齢者の就労促進、私的年金の普及を志向した内容となっている。

公的年金制度の改正

厚生年金被保険者の拡大

現在、社会保険(厚生年金)の適用となる短時間労働者の要件は

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上
  2. 1年以上の継続雇用が見込まれる
  3. 月額賃金が88,000円以上
  4. 学生でない
  5. 常時500人超を雇用する企業に勤務

であるが、上記のうち
<B>について、2022年10月から2か月超に短縮される
<E>について、2022年10月から100人超、2024年10月からは50人超に引下げる

また常時5人以上を雇用する各種仕業(弁護士・税理士等)の個人事業が2022年10月から社会保険強制加入となる

社会保険は法人の場合はすべてが、個人事業の場合は一部業種を除き常時雇用5人以上で強制加入となっている。この例外的に除外されている一部業種には理美容業・飲食業・農林水産業・各種士業などがあるが、このうち各種仕業が除外対象でなくなる

在職定時改定の導入(老齢厚生年金)

現行では、年金受給開始後(65歳以上)も厚生年金に加入して保険料を支払った場合、その支払い実績が年金額に反映するのは70歳到達時(その前に退職した場合はその時点)となっている。今般の改正により、毎年10月分から、直前8月までの保険料支払い実績が上乗せされて増額となる(2022年10月分から施行)

70歳到達時の年金額は同じだが、途中でも漸増することで累計での年金額が増える

在職老齢年金(65歳未満)の支給停止基準引上げ

現在、65歳未満で働きながら特別支給の老齢厚生年金を受給する場合、年金基本月額(年金年額÷12)と総報酬月額相当額(標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額の計÷12)の合計が28万円を超えると年金の一部支給停止が始まるが、この基準額を2022年4月から47万円(65歳以降と同額)に引上げる。支給停止を敬遠して労働を抑制することを回避する趣旨。なお適用は2022年4月からとなる(それ以前より受給している人も4月分より適用される)

停止額の算式も65歳以降と同じ
月停止額=(基本月額+総報酬月額相当額ー47万円)÷2
*「47万円」は賃金や物価の変動に応じて毎年見直される

受給繰下げが75歳まで可能に

受給開始の選択肢が60歳から75歳までとなり(現行は70歳まで)、75歳まで繰下げた場合、年金額は0.7%×120ヶ月=84%増額となる(増額率は変更なし)。なお本改定は2022年4月1日施行であり、その時点以降に70歳となる者すなわち1952年4月2日以降生まれが対象となる

当改定に合わせ、繰上げた場合の減額率が現在の0.5%から0.4%へと緩和される。すなわち60歳から受給した場合、現行では30%の減額となるが、改定後は0.4%×60ヶ月=24%の減額となる。ただし適用できるのは、改定日以降に60歳となる1962年4月2日以降生まれの者となる

私的年金制度の改正

確定拠出年金(企業型)の加入年齢制限を撤廃
(2022年5月施行)
現行 改正後
65歳未満の厚生年金被保険者
(60歳以降は同一事業所での継続雇用に限定)
厚生年金被保険者
  • 厚生年金への加入可能年齢は70歳未満なので、実質的には70歳までとなる
  • 確定給付企業年金は、従来より厚生年金被保険者であれば加入可能
iDeCo(確定拠出年金・個人型)の加入年齢制限を撤廃
(2022年5月施行)
現行 改正後
60歳未満の国民年金被保険者 国民年金被保険者

改定により60歳以上の2号被保険者や任意加入者も加入可となる

確定拠出年金(企業型・個人型)の受給開始時期の選択肢拡大
(2022年4月施行)
現行 改正後
60歳~70歳 60歳~75歳
上記以外にも、私的年金のさらなる普及を企図して、要件緩和、ポータビリティ拡大、手続き簡便化等に資する種々の改定が盛り込まれている
<例>

  • 簡易型DCや中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の実施可能企業を「従業員300人以下」に拡大(現行は100人以下)
  • マッチング拠出導入企業の企業型DC加入者はマッチング拠出かiDeCo加入かを選択できるようになる(現行はマッチング拠出のみ)